読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

生活の隙間に死を残せ(日記)

 

シャブと祖母

CHAGE and ASKAの飛鳥が覚醒剤所持で逮捕されたとき、死んでしまった肉親を思い出した。

その人は、相手が喜ばない贈り物を満面の笑みで与え続ける女性だった。

彼女が去った冬、遺品を片づけることになった。毛並みのよい淡色のカーペットに規則的に敷き詰められた、彼女が私に贈ることのなかった彼女の鞄、衣類、絵画、ポストカード…それらを箱一杯に胸一杯に盗んでいって、さっぱりと手放した。私は晴れ晴れしい、別れを告げたのだ。

どうしても愛せなかった。いなくなってくれてよかった、と多くが微笑んだ。仕方のないことだ。それなのに、パーマの取れかかった初老の白髪を、日に日に線の細くなる肉体を、さみしいと訴えかける赤子のような睫毛を、すれ違うたび思い出してしまう。もし彼女が生きていたら――そんなことを考えずにいられない生活しかないのです。

彼らのヒット曲に『SAY YES』がある。

彼女からの贈り物でたった一つだけ、嘘を付かずに、ただしく喜べたのが、このメロディが埋め込まれたオルゴールだった。

 

生きていて二度だけあったこと

ヨッパライ。こいつらは、ヨッパらうと、揃っておンなじ事を言って泣き出すから厄介である。

そう、大好きだった友人の死を嘆くのだ。

一度目、誰だって「生きていていいんだよ」という世界を作るんだ、と無責任に語り出した。二度目、「死んだあいつが好きだったから煙草を吸い続けたい」と強引な薀蓄を語り出した。このヨッパライめ。なんて。なんて。なんて、気持ち悪いのだろう、そして弱いのだろう。あまりにも弱すぎるから、宇宙はひっくり返ったし、最愛の恍惚の人となるしかなかった。

 

生活について

生活を重ねていると、生きることしか考えられなくなるから、ダメなのである。生きていくことしか考えられなくなったら、生きられないのです。生活の中から処刑場を奪ってはいけないし、生活の中に引き金は残しておかなきゃいけないし、いつでも自分は死んでいいと思えるような赤と青が点滅しているゆらぎみたいなものをきちんと残さなくてはいけない。

生活のなかに死ねる場所を作っとかなきゃいけなかった。いつだって爆発した星屑を観測する覚悟を。いつだって第一発見者である覚悟を。いつだって、その白い粉から翼が生える覚悟を。忘れちゃいけなかった。

いつだって死のうとしてなきゃいけなかったし、死んでしまってることを忘れちゃいけなかった。台所でトントントン、太陽の機嫌をうかがって洗濯機を鳴らす。ベランダに干されるのは私でもよかったし、あなたでもよかった。きらっきらの光沢のレース靡くブラジャーを手洗いしてたって、たぶん、それは生活じゃなかった。

生活の隙間に死を残すこと、透明人間になれるサーカスを残すこと、あの山脈から海を生やすこと、この狭いオレンジの部屋に吊るされたloveの中に神様はいないこと。

きみに「生きていていい」「死んでいい」と線引きされるぼくを許さないこと。

既に止まらなくなった喝采の中にも小さな生活が残されて。        お祈りして。さようなら